欧州諸国における

化学染毛剤の扱い

 

 欧州委員会(European Commission)は、毛髪染料に使用されている化学染毛剤薬品22種類について、長期間使用した場合、膀胱ガンにつながる恐れがあるとする研究結果を受け、化粧品成分に使用を禁止する方針を発表した。

 この使用禁止措置は、人の健康に安全であるとみなされる毛染め剤のポジティブリストを作成するためにEU 加盟国と利害関係者が合意した欧州委員会の全体戦略に基づくものである。


欧州委員会副委員長
(企業・産業担当)
グンター
フェアホイゲン氏
Guenter Verheugen

 

「安全が証明されない物質は、市場から消しておくべき。我々の高い安全基準の設定は、EU圏内の消費者の保護のみならず、欧州の化粧品業界に法的確実性を与えることでもある」

 


Commission bans 22 hair dye substances to increase consumer safety

 「もう見過ごせない!?」

化学染毛剤による皮膚トラブル事例が続出。国のご意見番・安全調査委員会が動いた!

 

 平成27年10月、消費者安全調査委員会(※1) から「毛染め」による皮膚障害に関する調査報告書が報告されました。増加傾向にあった「皮膚トラブル」の事例に、被害拡大を防ごうと委員会がやっと重い腰をあげたのです。

 

なぜいま頃になって調査報告?

 

 消費者庁の外郭団体であるこの委員会は、国内の諸法規改正のみならず、あらゆる市場の構造に影響を与えるため、その動向は「公開の時期」が慎重に協議されます。ヘアカラー剤の国内市場は1000億円を超える規模に広がりましたが、同調査報告は、消費者の製品離れ(不買)といった影響を与えるものであり、調査委員会も広報のタイミングを慎重に協議していたものでしょう。企業の利益よりも、国民の健康を守ることが優先された喜ばしい結論(報告書)です。

 

 ヘアカラーは、髪の色を明るくしたり、白髪を黒く染めたりするなど、年代を問わず一般に広く行われています。

その一方で、消費者庁の事故情報データバンクには、皮膚障害の事例が毎年度200件程度登録されています。(※2)

ヘアカラーの分類

 

 ヘアカラーリング剤とは毛髪を染めるための製品の総称で、医薬部外品である染毛剤と化粧品である染毛料とに分類することができます。医薬部外品の永久染毛剤は、染毛力が最も強いですが、健康被害の多いものです。

 

 

酸化染毛剤とは?

医薬部外品

 酸化染毛剤は、染毛成分が毛髪の内部深くまで浸透することによって染めるため、染毛料など他のヘアカラーリング剤に比べると色落ちが少なく長期間効果が持続します。また、毛髪に含まれるメラニン色素を分解(脱色)しながら髪を染めるため、染毛成分の違いにより明るい色にも、暗い色にも染めることができます。これらの特徴から、酸化染毛剤は、ヘアカラーリング剤の中で最も広く使用されています。

 酸化染毛剤には主成分として酸化染料が含まれます。酸化染料は、毛髪の内部で過酸化水素水等の酸化剤によって酸化されることで発色し、色が定着する仕組みです。酸化染料の役割を果たす代表的な物質のパラフェニレンジアミン、メタアミノフェノール、パラアミノフェノール、トルエン-2,5-ジアミン等は、アレルギー性接触皮膚炎を引き起こしやすい物質です。

 

 


半永久染毛料とは?

化粧品

 半永久染毛料は、染料が毛髪の表層部に吸着することによって毛髪を染める製品です。
代表的な製品であるヘアマニキュアは、脱色を行わないため、酸化染毛剤と比べると髪を傷めにくい性質です。毛髪内のメラニン色素は残すので、極端に明るい色にすることはできません。また、表面に着色した色素が次第に流出するため、色持ちも短いです。

 


 

 

化学成分のカラーリング剤を使用した方の皮膚障害の事例

調査委員会公開画像より引用

 

事例 ①

 

 40歳代から自宅で毛染めを行ってきた。2年ほど前から毛染めをすると痛みやかゆみを感じたが、市販の薬を塗れば症状は治まるので、これ以上ひどくなるとは思わずに毛染めを続けてきた。今回毛染めをしたら、顔面が赤く腫れ、浸出液が滴る状態になり、初めて医療機関を受診した。これまで、製品の外箱や使用説明書に注意事項が詳しく記載されていることには気付かなかった。

 

写真)酸化染毛剤によるアレルギー性接触皮膚炎の患者。顔面が赤く腫れ、浸出液が滴っている。


事例 ②

 

 ひどい手荒れのため、皮膚科医で治療を受けていたところ、耳たぶや頭皮にもかぶれの症状が出てきた。なかなか治癒しないため、皮膚科医の勧めで総合病院を受診して詳しい検査を受けたところ、ヘアカラーリング剤に含まれるパラフェニレンジアミン(酸化染料)という物質が原因でかぶれており、他の染料に対しても反応していることが分かった。総合病院の医師からは、酸化染毛剤での毛染めをやめて染毛料に変更するように言われた。

 

写真)酸化染毛剤によるアレルギー性接触皮膚炎の患者。耳の周りが赤くただれ、浸出液がにじみ出ており、手指にも症状が出ている。


 

事例 ③

 

 これまで毛染めを行ってきたが、初めて出向いた美容院で毛染めの施術を受けたところ、施術から1週間ほど経った頃、頭皮が赤くなって吹き出物のようなものが現れ、かゆみが出て、髪の毛が抜け落ちたりした。美容院に相談して皮膚科を受診したところ、染毛剤による接触皮膚炎と診断され、今後、1年間は治療を続けるよう言われ、しばらくの間は2週間おきに通院することになった。

 

毛染めによって起こる疾患

 毛染めによって起こる疾患は主に皮膚炎であり、かぶれとも呼ばれます。また、皮膚炎だけではなく、まれにアナフィラキシーが起こることもあります。

皮膚炎は原因となる物質の作用の違いによって、アレルギー性接触皮膚炎と、非アレルギーの刺激性接触皮膚炎の2つに分かれ、症状が重い場合は外貌が著しく損なわれるため、身体的な苦痛だけでなく、精神的な苦痛を感じたり、仕事や日常生活に支障を来したりし得ます。

毛染めによる疾患は3つの症状

アレルギー性・接触皮膚炎

感作(かんさ ※3)が成立した人にのみ生じます。

物質に感作した後、その原因物質に再び接触したときに発症する。一度発症すると、炎症が治癒しても原因物質(アレルゲン)に接触すれば再び反応が現れます。症状が重くなると、接触部位を超えて症状が現れることがあります。

またその物質がついた皮膚に光が当たるとアレルギー反応が起きる光アレルギー性皮膚炎もあります。

【 主な症状 】かゆみ、発赤、水疱、傷み、湿潤局面が広がり次第に腫れていく。

 

アナフィラキシー

感作(かんさ ※3)が成立した人にのみ生じます。

物質に感作した後、その原因物質に再び接触したときに発症して、接触部位以外に、短時間で複数の発症が起こります。一度発症すると、炎症が治癒しても原因物質(アレルゲン)に接触すれば再び反応が現れます。症状が重くなると、接触部位を超えて症状が現れることがあります。

【 主な症状 】じんましん、発赤、息切れ、咳、どうき、血圧の低下、めまい、腹痛、嘔吐等

 

刺激性・接触皮膚炎

皮膚の状態や体調によって起こったり起こらなかったりします。

原因物質(刺激物質)の化学的な刺激の強さが、皮膚の許容濃度を超えた場合に生じます。治療を行うことにより完治することができます。

【 主な症状 】かゆみ、発赤、水疱、傷み、湿潤局面が広がり次第に腫れていく。

 


 

(※3)感作とは?

あなたもアレルギー予備軍?

 スズメ蜂に2回刺されたら危険!と聞いたことはありませんか?

花粉症やダニアレルギー、そして毛染めによる疾患アレルギーも全て「感作 かんさ」というメカニズムが体内に起こっているのです。

アレルギーの原因物質である「抗原 こうげん」が体内に侵入すると、カラダの免疫細胞が抗原と戦うための武器を準備します。これを専門的には「IgE抗体」と呼びます。この抗体はカラダに蓄積され、それが一定量を超えると「アレルギー」が発症します。

 

カラダの中にガラスコップがあると想像してみてください。

毛染めを続けると、その原因物質が1滴づつコップにたまっていくのです。コップの淵まで盛り上がっても、こぼれなければアレルギーは発症しませんが、溢れたとたんに恐ろしい疾患がカラダを襲います。

「私は大丈夫!カラーリング、パーマ何でもOK!」とは考えないでください。

コップが溢れるまえに止めることをおススメします。